GOMESS - あい (2014)

※2020年11月6日 投稿
※2021年1月16日 体裁の調整

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第二回「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」で準優勝を果たしたラッパーGOMESSが、2014年にリリースした1stアルバムで、三部作『あい』『し』『てる』の一作目。

自閉症を公言している彼の詩は、彼の過去のことや心の葛藤が中心的なテーマだ。その唯一無二の「リアルさ」こそが彼の個性であり、だからこそ自分は彼の言葉を聞きたくなる。

 

M-1「普通のことができないから」は、弾むように明るいピアノと緑川マリナのボイスが特徴的で、作中でも飛びぬけてポップな曲。これらの音の主張がかなり激しくて、一歩間違えると、ヒップホップ的な音楽の良さが失われてしまいそうなところだが、ハイハットやスネアの質感やGOMESSのフロウのグルーヴによって、楽曲がギリギリのところで(大分ポエトリーリーディング的ではあるが)ヒップホップとしての体裁を保っているような印象がある。アルバムで聞いたときに一番初めに聞いたからというのもあると思うが、この楽曲のリリックはとても印象的でまっすぐと心に響く。「いじめもいじめられも両方経験した」「自分勝手でもいい 歌いたい」「誰かの救いになれるんだとしたら 作り出せ新しい自分新しい世界新しい音楽この言葉を」なんていうフレーズを言える人間がどれほどいるだろう。

M-2「ゴメスティック・バイオレンス」やM-4「路上戦争」は、オールドスクールなヒップホップのスタイルの曲。GOMESSが決して自閉症というキャラクター性に頼ったラッパーではなく、奥行きを持っているミュージシャンであることを感じさせる。

M-9「人間失格」は、ポエトリーリーディング調の曲で、今作を象徴する楽曲。ループするギターの、生々しい音色が透き通るように美しい。詩は、自分自身の障害のことを吐露し、その上で「それが俺だ」と「ヒップホップ的に」言い切るような内容だ。次作『し』のリードトラックの「LIFE」は、自己の原体験をありありと描写するような内省的な曲で、そちらも素晴らしい作品だが、もし自分がGOMESSを聞いたことのない人に一曲だけ紹介する機会があるなら、彼が自分の存在を高らかに宣言した、この「人間失格」を勧めたい。

 

ヒップホップ的な楽曲の制作スタイルにあまり明るくないので、以下の話は多分に妄想を含むが、今作にはLOW HIGH WHO? PRODUCTIONのスタッフの貢献もかなり大きいのかなと考えてしまう。多様なスタイルのトラックは、GOMESSの持つ様々なフロウを引き出し、またフィーチャリングしている様々な歌い手の声は孤独なGOMESSに寄り添うに優しい。M-10「笑えてた」では、彼が少しだけ自分や世界を受け入れることができたように感じているような心情が吐露されるが、同時にそこに至るまでに多くの仲間の助けがあったのだろうなということ、また彼自身それに深く感謝していることも聞いていて感じられる。自分を支えてくれる仲間に巡り合えて良かったね、と彼に感情移入して自分まで嬉しくなってしまう。