THE ROOSTERZ - φ(PHY) (1984)

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6作目、大江慎也在籍時の最後のアルバム。バンド初期のストレートな荒々しさは、もはや見る影もない。空間系のエフェクトやキーボードの音色を効果的に用いたニューウェイヴサウンドは、暗く内向きで淀んでいる。

当時の大江さんの状態は最悪だったそうで、多くの楽曲において、作曲は花田さんが、また作詞は柴山俊之(バンドの出身地である福岡の先輩、元サンハウス)が担当している。それなのにどうしてだろう、この音楽は大江さんのひどく衰弱した状態をありありと描き出しているようだ。

「これから先の僕の行く道が闇に包まれて分からない」(M-5「Broken Heart」)
「夜より暗い昼間の街角 誰か生き方教えておくれ」(M-7「Street In The Darkness」)

どちらも大江さん自身が書いたものではないのだが、その不安定で弱々しい歌声も相まって、どうしようもない絶望と混乱の心理状態がリアルに伝わってくる。

でも、不思議なことに、そのドロリと濁った音の風景の中には、ほんの少しの希望も混じっている。それは、まどろみのなかで出会う幻のようなもの。一瞬で失われてしまう虚構であるのだ。果たして、その幸福感が偽りのものであることに全く気づいていないのか、あるいは気づかないふりをしているのか、そのつかの間の夢のひと時を悲しい笑顔で受け取る姿が、あまりにも痛々しくて、でもだからこそ儚く美しい。