lang - カイエ cahier (2020)

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今年の春ごろ、langの『There is no reply, but sweet wind blew』(2018)にハマって、それから激情系ハードコア関連の作品を少し聞くようになった。2020年は何だか虚しい一年間だった気がするけど、このバンドを知れたのは今年の良かったことの一つかもしれない。

『カイエ cahier』は、今年の8月にリリースされたEPで、新曲が4曲と、『調べ』(2014)収録のものを再録音した「柄」の、合計5曲から構成されている。音楽的な特徴としては、Daitroなど00年代のヨーロッパの激情系バンドからの影響を強く感じられる。暴力的な激しさからもう一歩先に進んだ領域の、清らかな美しさを併せ持ったスクリーモサウンドである。

このバンドの音楽には一つ大きな特徴がある。それは、ボーカルの和田さんによる、詩を朗読するような歌唱である。同様の手法は、これまでに多くのスクリーモバンド達にも用いられてきたはずなのだが、langのサウンドにあるこの不思議な響きは何なのだろう。和田さん独自の感覚に基づく発声法によるものなのか、あるいは日本語という言語の抑揚が独特であるからなのか、それとも単に僕にとって母語であるから明瞭に聞き取れているだけなのか。その呟きは、少年の漏らすたわいもないひとり言のようでありながら、同時に晩年の老人の言葉のような重みもある。langのサウンドに強く感情移入してしまうのも、このポエトリー調のパート*1があるからこそなのかもしれない。

冒頭では「激情」という言葉を用いたが、この言葉を用いて彼らの音楽性を形容するのは少し不本意である。langの音の持つ独特な響きはそのような形式的な言葉だけでは決して語り得ない。僕自身そのジャンルに馴染みのなかった頃にこのバンドをハマったということもあり、むしろ、激情系なんて知らないよという人に聞いてほしいと思う。

*1:ボーカルの和田さんは、友部正人加川良といった70年代URC関連のフォークシンガーや尾崎豊に影響を受けているそうだ。3LAによるインタビュー (3LA -LongLegsLongArms- / Interview with lang by 3LA) やGuilty Forestさんのレビュー (Guilty Forest - 調べ/Lang) より。