キミドリ - キミドリ (1993)
東京において日本語を用いたラップ/ヒップホップが出現し始めた90年代初頭、いわゆる黎明期の作品だ。今では「クラシック」なんて風にも言われるこの時期の作品群には、陰鬱としたアンダーグラウンドな雰囲気が感じられるものが多いが、『キミドリ』の音にもそのような暗い影が見える。またリリックやフロウのスタイルは、パンクのそれに通ずるところがあり、なかなか荒々しい。そのように、日本語ラップ(ヒップホップ)がジャンルとして確立される以前の挑戦的な試みに満ちた作品であるから、一枚の音楽作品としては未完成というか詰めが甘いように感じられるところもあるのだけど、それもまたリスナーが自由に感情移入できる「緩さ」としてポジティブに働いている気がする。
収録曲の中では、M-4「自己嫌悪」が特に目立つ。薄暗い場所に一筋の光が差し込むような不思議な明るさを秘めたトラックと、若者特有の不安に満ちた感情を述べたリリックがすごく良い。「社会派なんてクソ食らえ 社会の前に我に返れ」という一節を聞くと、とても強く共感してしまう一方で、そんな風に己の殻に閉じこもろうとする自分を認めたくない気持ちもあって、その二つが自分の中でせめぎ合うのだが、でもやっぱりその通りだよなあと思って、ふふふと笑いながらうなずいてしまう。