LINDBERG - LINDBERG III (1990)

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このLINDBERGというバンドは、90年前後にかなり売れたグループであったらしい。が、親や周囲から音楽を押し付けられることなく育ったのもあるのか、正直私は彼らの名前も曲も全然聞いたことがなかった。後から生まれた人間が昔の音楽作品を新たに聞いていくときは、往々にして何かの文脈に頼りながら掘っていく必要があるが、逆に言えば当時は有名だったものでも簡単に漏れてしまうということだ。だからこそ、自分の関心から少し遠くにある作品を偶然知るひょんなきっかけというやつは貴重であると感じる。私とこのバンドの場合は、彼らの楽曲「LITTLE WING」がアニメ『ブレイブウィッチーズ』のEDに採用されていたのをきっかけで知ることができた。『LINDBERG III』はバンドの3枚目の作品で、その「LITTLE WING」や、代表曲の一つである「今すぐKiss Me」が収録されている。

どの曲も、とてもシンプルなバンドサウンドで構成されている。当時をリアルタイムで体験していない私であるが、そんな私がイメージする「時代の」音はまさにこんな感じだ。言ってしまえば、売れ線狙いの「歌もの」という側面が強い。だから嫌いだなんて言うつもりは全くなくて、むしろその産業的な響きが好きだ。いわゆる「お決まりの」というやつがあちこちに散りばめられていて、なじみ深さを覚えながら流れる音楽に安心して気持ちを預けられる。

音楽的特徴についてもう少し詳しく書いていく。ボーカルの渡瀬マキについて。元々アイドル歌手であったという彼女の歌唱には何とも言えない華がある。彼女は己の技量を見せびらかすようなことはせず、直線的にメロディーを歌い上げる。詩も含めて、そこには飾りっ気というものはあまりなく、それを淡泊であると言うこともできるのだが、しかしそのシンプルさが良い。

彼女の歌唱がそのように聞こえるのには、歌のメロディーの音域も関係しているように思える。例えば同じく女性ボーカリストを前面に押し出したJ-POPであるジュディマリ(比較対象として少し極端かもしれない)と比較してみると分かりやすいのだが、アルバム全体を通して彼女がその持ち味を発揮できる音域にメロディーの音階が定められているように聞こえる。ひょっとするとこれは作曲者(渡瀬以外の三人がそれぞれ曲を書いている)の意図的な工夫なのかもしれない。

また、ここまでシンプルなサウンドであるということを強調して書いてきたが、よく聞いてみるとアレンジには多様性があり、ここにも工夫が見える。例えばギターにおいては、ロックなインパクトの強いブリッジミュートを用いたサウンドを中心に据える一方で、80年代ニューウェイヴ的な柔らかいエフェクトも効果的に用いているのが目立つ。結果、先に述べた「LITTLE WING」と「今すぐKiss Me」ばかりが突出してしまうことなく、その他にも「RUSH LIFE」や「RAINY DAY」など良い感じの曲がたくさん出揃っていて、一枚のアルバムとして中々充実した作品だなと思わされる。