ART-SCHOOL - MEAN STREET (2001)

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サウンド面では90年代のUSインディー/オルタナのバンドの楽曲から直接的に引用しながらも、歌詞やタイトルの面では映画や文学作品からの影響を伺わせる。とは言え、全てがオマージュばかりで構成されているわけではなく、そこには確かなオリジナリティもある。特に独特なのが、木下理樹が紡ぐ詩の世界だ。どの曲の詩においても「少女」あるいは「君」という存在が登場し、主人公は彼女に「救い」を求める。

このほとんど異様なまでの歌詞の世界観が、バンドのローファイで単純なサウンドに価値を与えている。本来であればマイナスの要素であるはずのバンドサウンドの貧弱さが、女性に「救い」を求める一人の青年の等身大の姿を表すものとして美化され、プラスへと転じているのだ。

 

 

M-3「ニーナの為に」がトラックとして用いられたMAD動画を紹介する。これはアイドルマスター関連のMADであるのだが、アイマスというコンテンツのことをよく知らない人でもこの作品を楽しむことはできると思う。「天海春香」というアイドルは、現実世界には存在しない架空の「少女」だ。この映像作品は、虚構の存在としての「彼女」を儚くも美しく描写する。視覚的な表現として、激しく動くカメラワークや断片的に挿入される実写映像が有効に働いているのは言うまでもないが、その一方でアート・スクールの音楽もとても重要な役割を果たしてる。せわしないリズムは、目まぐるしいカット割りと連動することで見る者の心を揺さぶり、また「ニーナ」に語りかけるような歌詞は、製作者の「春香」への一方通行の思いとリンクし、映像に説得力を与える。総じて、アート・スクールというバンドの魅力がよく活かされている作品と言えるだろう。またそれ自体が二次創作的な側面を持つアート・スクールの音楽が、音楽カルチャーとは別の文脈の二次創作に利用されているという意味でもなかなか興味深い。
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関連作品

上で紹介したMADに関連してもう少しだけ。このMADが投稿されるより4ヶ月前の2010年3月に発売されたCD『MASTER SPECIAL SPRING』に、天海春香のソロ曲として「笑って!」という楽曲が収録されている。これは憶測であるが、製作者は、同曲に対するアンサーとして、「笑って」という一節を詩の中に含む「ニーナの為に」をMADのトラックに用いたのではないだろうか。もちろん、元々ロキノン系の音楽が好きだったというのもあるだろうが(製作者は動画だけでなく漫画作品も制作していて、そちらではナンバーガールの「OMOIDE IN MY HEAD」に言及していたりする)。