The Shaggs - Philosophy Of The World (1969)

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カート・コバーンフランク・ザッパが紹介していたこともあり、このシャッグスというバンドは、楽器素人による前衛的な音楽(ジャンルとしてアウトサイダー・ミュージックと呼ばれることもあるらしい)の中でも特にカルト的な人気を誇る。

M-1「Philosophy of the World」からM-12「We Have a Savior」まで、全ての曲がジャンクそのものである。ギターとベースとパーカッションが全然別のことをやっていて、アンサンブルはほとんど崩壊している。その割に、ギターとボーカルの音色だけは(同じ者が担当しているからであろうか)きっちりユニゾンしているのが奇妙だ。

この人たちは実の姉妹らしく、父親に押し付けられる形でバンド活動を行ったようである。ほとんど専門的なスキルもない人たちが消極的な態度で音楽をやってみた結果、このようなぶっ壊れた代物ができてしまう、というところまでは分かるのだが、この人たちがすごかったのはこの完成度で録音まできっちり成し遂げたことである。一般的な目線から評価すれば底辺に位置するということは本人たちも分かっていただろうに、何が彼女らを後押ししたのか。ともかく録音は達成された。そうしてこの『Philosophy Of The World』という作品をもって、シャッグスというバンドは後世においてカルト的な人気を得ることとなった。

だが待ってほしい。このバンドの楽曲を、ただ単にヘタで笑えるという評価で終わらせるのはもったいないだろう。上で述べてきたように、シャッグスはバンド演奏の一般的な訓練を経ていない素人のメンバーで構成されたバンドで、その音楽もジャンクそのものである。しかし、その異様な稚拙さの中には、いかんとも形容しがたい明るさがある。まさにジャケットでメンバーが見せている控えめな笑顔が、音楽の表現の中にもある。その明るさの表現の源になっているのは、ボーカルの絶妙なポップセンスだ。彼女の歌う大らかで明るいメロディーを聞いていると、きっとこの人は60年代当時流行っていた流行のポップスがとても好きで、そこから着想を得たのだろうと想像する。

それから、おそらくこのバンドの表現は、パンク以降の時代ではあり得ないものだろう。ギター素人でもパワーコードを3つ弾ければロックをやれることが証明されてしまった現在では、多くの初心者が安易にその「解」を用いてしまう(ワイヤーなど、パンクという条件の中で、初心者ならではの自由な発想で音楽性を拡大していったバンドもいるが)。実際の詳細な統計は知らないが、個人的には、楽器素人によるロック表現の幅はパンクの存在によって狭められている気がしている。

ともかくシャッグスは、パンクのパワーコードにもエイトビートにも染まっていない。だからなのか、ロックミュージックの原初的な楽しみというものに触れたくなるとき、彼女らの音楽を聞いてしまう。

 

ちなみにこのバンドは1975年に2枚目のアルバム『Shagg's Own Thing』をリリースしている。そちらでは各メンバーの演奏技術は驚くべきほどに向上していて、特にドラムは、一切を無視してパワーとノリだけが先行していたような演奏だったのが、ポップスの伴奏としてまさにふさわしいような良質なものへ激変している。その一方で歌とギターのユニゾンという表現はちゃんと生きていて、そんなところにバンドが『Philosophy Of The World』をなかったことにせず、着実と成長を重ねた証を読み取ることができる。シャッグスは決しておふざけだけのバンドではなく、ピュアに音楽を愛していた人たちだったのだ。