Wilco - Yankee Hotel Foxtrot (2002)

※2020年8月18日 投稿
※2021年1月16日 体裁の調整

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Wilcoの4thアルバム。


穏やかさの中に、ノイジーなピアノ、変則的なドラムのフレーズが目立つ、M-1「I Am Trying to Break Your Heart」は、このアルバムの雰囲気をよく表す一曲だと思う。「オルタナカントリー」的なやさしいメロディーが楽曲の根幹にあるが、そこに(おそらく)ジムオルークによる飛び道具的な音や、意表を突くようなドラムのフレーズが重なることで、曲に変化が生まれていて、聞いていて退屈しない。

M-3「Radio Cure」はすごく好きな曲。冒頭から、曖昧で不穏さを感じさせるような重々しい音が続く。その淀んだ感じには、スリントやコデインにも通じる緊張感を覚える。そして、曇ってもやがかかったような灰色の音の中で、ふとわずかな光が差し込むようにして印象的な明るいメロディーが奏でられる。そのメロディーは途切れるようにしてすぐに消え、また元の淀んだ音に戻ってしまうのだが、その後でもう一度先のものと同じメロディーが、今度はドラムのビートともに入ってくる。しかも一度目と違って、すぐにそのメロディーが消えてしまうことはなくて、それは何度も繰り返される。反復の中で、ドラムのエイトビートとメロディーはどんどん力強さを増していって、雲がみるみる晴れ渡り、不穏さが瓦解していくような圧倒的なカタルシスを覚える。

M-4「Jesus , Etc.」、M-5「War on War」、M-7 「Heavy Metal Drummer」あたりの比較的シンプルで良メロの曲も、もちろん聞いていて最高に心地いい。特にM-7の何とも言えない小気味よさが好きで何度も繰り返し聞いた。

M-10「Poor Places」は、M-1と同じようにこのアルバムを象徴するような曲。曖昧さの中で、綺麗で繊細な歌メロが現れたり消えたりする。顔を出しては消えて、その全身は見えないような感じは、お化けのような現実離れしたものをイメージする。怖くて不気味な恐怖の対象というよりも、ふとやって来て人間を助けてくれるような、奇跡的な存在のようなイメージ。ラストのノイズパートの壮大さは、ビートルズの「A Day In The Life」を思い出す(そう思って、この文章を書きながらそちらを聞きなおしたら、ドラムの何とも言えない小気味よさやアレンジの自由な感じが、今作の楽曲と質感が近くて少し驚いた)。

今作を初めて聞いたときは、何となくニールヤングの『After The Gold Rush』を思い出した。あのアルバムは、都会にいるような、あるいは田舎にいるような、喧騒を少し離れたところから眺めながら、静かに過ごしているイメージが浮かぶような作品だけど、今作も少しそれと似ている感じがする。

心の隙間を埋めてくれるような優しい名盤。