Lily Chou-Chou - 呼吸 (2001)

※2020年9月20日 投稿
※2021年1月16日 体裁の調整、加筆修正

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2001年公開の映画『リリイ・シュシュのすべて』から始まったプロジェクト「Lily Chou-Chou」のアルバム。同じく映画の劇中バンドであるYEN TOWN BAND(こちらは1996年公開の『スワロウテイル』に登場する)とは、「中の人」(岩井俊二小林武史、名越由貴夫)が共通していて、切っても切れない関係にある。

劇中において、このバンドは中学生である主人公が現実から逃避するために聞いている音楽として登場するようだ。とても難しいコンセプトだ(現在の感覚であるならそのようなナイーブさを宿した音楽は少なからず存在しているように思えるが、それらは『エヴァ』以降に音楽家たちが作り上げてきたものがあってこそなのだろう。Lily Chou-Chouもそれに一役買っているのだと想像する。)が、このアルバムの内容は、その重厚なコンセプトに負けていない。

本作について語るならば、アメリカやイギリスの音楽史にも触れなければならないだろう。アメリカやイギリスにおいては、90年代以降「暗い」音楽が台頭してきた。ニルヴァーナジェフ・バックリィ、ポーティスヘッド、ナイン・インチ・ネイルズレディオヘッドビョークなど、挙げればキリがない。『呼吸』も、非常に暗い作品だ。あるいは、内向きであるということの徹底具合においては、上で挙げたようなミュージシャンの作品を凌駕しているようにも思える。

ここで私は、製作チームが、本作を完成させるに当たって先人たちの作品を参照していることを想像する。例えば、M-1アラベスク」における無気力に鳴り響く単調なリズムは、ポーティスヘッドの『Dummy』を彷彿とさせる。Salyuの歌声を、べス・ギボンズに重ねて捉えることも可能だ。また、M-7「飛べない翼」におけるわずかに揺れるようなギターサウンドは、レディオヘッドの『OK Computer』のそれに似ている。あるいは、音数の少なさと小さな起伏という点では、レッド・ハウス・ペインターズのようなスロウコア系のインディーズバンドにも近いものを見出せる(ここでズバリと参照元を提示できず、ふんわりとして指摘になってしまうのが悔しいところだ)。

この作品を初めて聞いたとき、『新世紀エヴァンゲリオン』を見た中学二年生のときのことを思い出した。当時の私は、音楽に関心を持ち始めていた時期だったこともあり、作中でシンジが一人暗闇の中でイヤホンで音楽を聞いているのに憧れを覚え、『エヴァ』のような世界観を宿した音楽を求めた。結局、そのような作品を見つけることはなかったのだけど、もし当時の自分と話すことが出来るなら、私はこの作品を是非教えてあげたい。それくらい素晴らしい作品だ。