冨田勲は1950年代からテレビ番組の劇伴など多岐にわたって活躍した作曲家だ。現在だと、環境音楽の文脈からも語られる存在だという印象がある。*1『展覧会の絵』は、1974年発表の『月の光』に続いて彼がシンセサイザーを用いて作り上げたアルバムの第二作で、モデスト・ムソルグスキーによる同曲を編曲したものとなっている。
まず聞いて驚かされたのが、シンセサイザーによる音色の圧倒的な表現力。いったい制作にどれほどの時間と労力を要したのだろうか、電子音を用いてオーケストラのような奥行きと広がりを緻密に表現したサウンドは、見事と言うよりほかない。
そして何より印象的なのは、やはり「プロムナード」だ。作中でこの楽曲が4つ挿入されていて毎回そのアレンジが異なるのだが、どれも本当に素晴らしい。ムソルグスキーが展覧会を歩く自身の姿を表現したというその抒情的な旋律を聞いていると、暖かい情景がぼんやりと眼前に浮かび上がってくる。正直ここのところずっと気分が最悪なんだけど、最悪だからこそ、この「プロムナード」から見えてくる風景があまりに美しくて、鎮痛剤に縋るように何度も再生してしまっている。
*1:環境音楽についての英語版のWiki(Ambient music - Wikipedia)にも名前が挙がっていたりする。