eastern youth - 口笛、夜更けに響く (1995)

※2020年9月17日 投稿
※2021年1月16日 体裁の調整

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イースタンユースの初期の傑作。

今作『口笛、夜更けに響く』と次作『孤立無援の花』は、メジャーデビュー作『旅路ニ季節ガ燃エ落チル』より以前に発表された過渡期の作品と位置付けることが出来るだろう。歌謡曲的な抑揚のある歌と、パンキッシュなビートと鋭角的でざらついたギターの塩梅が絶妙で、あくまでパンクの延長線上にありながらも、そこから逸脱した個性を感じさせる。日本語をもって歌い上げられる熱のこもった力強い歌には、奮い立つような高揚感を感じる。

M-2「滾らせ、生き抜け」は、イントロから吹き荒れる嵐のような怒涛のアルペジオリフが印象的な一曲。聞いていてもたらされる昂ぶりはアルバム中随一で、街の中を駆け出したくなるような、あるいは”駆け出さなければいけない”ような気持ちになってくる。森田童子のカバーであるM-3「たとえばぼくが死んだら」(ストリーミングでは未配信)も最高。本家の静かで物悲しい趣とはかなり違ったテイストだが、イースタンユースの楽曲としてこの上ないクオリティに仕上がっている。M-6「只、眠れる塊」はここまで息もつかせないような疾走ナンバーとは打って変わって、スローテンポな曲。抒情的なギターと歌で、吉野の溢れんばかりにこみあげる感情を歌い上げたような名曲。M-11「冬の残像」は、今作の中でも異質な一曲で、ブッチャーズにも少し似た質感のインスト曲。澄み切ったアコースティックギターとエコーのかかったエレキギターが奏でるハーモニーは優しく淡い。聞いていて自分が思い描いた風景は冬の夜の札幌。雲が空を覆い、ふわふわとした綿のような雪がゆっくりと街に落ちるのを、街灯の灯りが照らしている。空気は冷たく、皮膚を刺す。ほの暗い夜の街は、残酷で、人を寄せ付けないような冷徹な場所だけど、そんな中にも人間は生活していて、確かに小さな幸福たちが育まれている。それは、ひどく冷たい場所の中だからこそ、清く美しく、そして明るい。そんな故郷の姿を、思い出し懐かしむような曲。

 

吹きすさぶ風の中で、それに抗い、立ち向かい、ただ一人強くあろうとしている人間の姿を描いたようなアルバム。