エレファントカシマシ - ココロに花を (1996)

※2020年10月24日 投稿
※2021年1月16日 体裁の調整

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エレファントカシマシポニーキャニオン移籍後の第一作。高校生の頃に好きだったアルバムだけど、サークルでコピーすることになったから聞き返した。

今作は、エピック・ソニー時代の、ある種独りよがり的とも言えるような猛々しさや内省的な暗さに満ちたロックンロールサウンドのスタイルを捨てて、より多くのリスナーに音楽を届けるべくして作られたアルバムだ。楽曲のところどころに、その変化の過程が感じられるのが面白い。

オールドスクールなロックンロールの色合いが強い楽曲M-1「ドビッシャー男」から続く、M-2「悲しみの果て」は、前曲から一転して歌謡曲っぽくてすごくポップな曲だ。2分半ほどでスッと完結する潔さが良い。シンプルかつ大胆なメロディーや歌詞は、一度聞いたら中々忘れられなくてすごく印象的だ。昔は気づかなかったけど、今聞くと、途中の「部屋を飾ろう~」のあたりの歌詞は、ちょっと太宰治っぽさを感じたりして宮本のルーツが少し見えた気がした。M-6「四月の風」は、すごく爽やかな曲。どこまでもポジティブなんだけど、それは根拠のない自信や空元気とは違う。現実の身の回りの状況が確かに良い方向に進んでいるような、そんな力強い明るさがこもっていて、聞いていて感じがいい。シロップの五十嵐隆が一番好きな曲として挙げていた(ソースが何なのか忘れちゃったので嘘かもしれない)のが、個人的にすごく納得できる。M-9「流されていこう」は地味だけど、ドラムの小気味のいいリズムの刻み方やサビの歌メロの解放感が何となく好きな曲だ。唐突に差し込まれるキーボードの音なんかは、ポップに仕上げようとして失敗しているように思えるけど、そのこけちゃってる感も楽しくて好き。他にも、爽やかで明るいギターの音色が目立つM-4「孤独な旅人」、抒情的なアルペジオと歌のメロディが印象に残るM-7「愛の日々」、ドラマティックな展開が心に刺さるM-11「OH YEAH!(ココロに花を)」なども好きでよく聞いた。

今作の収録曲ではないけど、オリジナルバージョンの「四月の風」もめちゃくちゃ良くて大好きなので、ここに感想を書いておく。「四月の風」には、歌のメロディやアレンジが後に発表されるものとは大分違うデモバージョンが存在している。その録音は、没にされ一旦はお蔵入りとなってしまうのだが、デビュー25周年を迎えた際に、その記念として発売された『ココロに花を』のデラックスエディションに収録されたため、今はそちらで聞くことが出来る。オリジナル版は、リズムが少しゆったりとしていて、またメロディは少し内向きだ。後のバージョンの、感情が外に向かって完全に解き放たれている爽やかな感じと比べると、こちらは自閉的な段階を経て力強く前へ一歩を踏み出す瞬間のようだ。折れてしまいそうな繊細さも感じるが、同時に、陽気に門出を祝うような、洋々たる明るさや頼もしさにも満ちている。また歌詞については、後のバージョンもすごくポジティブなんだけど、それよりもさらに素直で前向きな言葉が多い。宮本が当時抱いていた、来たる未来への期待感が込められているようだ。リリースに当たって少し照れ臭くなって表現を変えたのだろうかと想像してみると、すごく微笑ましくて暖かい気分になる。

今作に続いて発表される『明日に向かって走れ-月夜の歌-』と『愛と夢』では、歌謡曲的なポップさが飽和に達し、バンドの表現が円熟している一面もあるように感じられる。それに対して、今作は、まだ中途の段階とでも言うのか、虚勢の仮面を外し、他人に受け入れられようと努力しつつも、一方でそこに小さな戸惑いを感じているような姿が音に表れている気がする。新しい表現に照れくささや喜びを感じながら、少しずつ前に向かっている様が、すごく健やかで明るくて手放しに肯定したくなる。

タイトルには「花」とあるのにジャケットに写っているのが「葉」なのは、あなたの心に生い茂っている「葉」を開花させましょう、という気持ちが込められているのかもしれない。