Cap'n Jazz - Analphabetapolothology (1998)

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ティム・キンセラ、マイク・キンセラをはじめ、後にUSインディー界隈で名をはせる人物たち*1が在籍していたバンド、キャップンジャズのアンソロジー作。バンド唯一のオリジナルアルバムから引っ張ってきた冒頭の12曲をはじめ、合計34曲が収録されている。

正直なところ、所謂「midwest emo」に括られるバンド達については、その全部が好きというわけではなくて、楽曲単位(さらに言えば曲の中の何秒のあたりだとかフレーズの単位)で、好きなものと違和感を覚えるものが混在しているのだけれど、少なくとも、キャップンジャズは以前よりフェイバリットであるバンドの一つである。

彼らの音楽的な特徴であるが、根っこのところに感じるのは、Rites of Springなどのエモーショナル・ハードコアのスタイルだ。ギターを爆発的に歪ませて荒々しく駆け抜ける音の世界のなかには、孤独、諦観、郷愁、希望などの様々な感情を見出せる。また、その荒々しい表現の一方で、彼らのサウンドには、ハードコアパンクの枠には収まらず、そこからは逸脱しようと模索しているさまも感じ取れる。これはドラマーの端くれとしての見方ではあるが、個人的には、メンバーの中でも特にマイク・キンセラのドラムの演奏にそれを強く感じる。衝動的な荒々しさを全面的に押し出しつつも、随所で緩急を自在に操る彼のプレイは、楽曲全体における情緒を豊かに演出している。後にアメリカンフットボール(あちらではギターボーカルを務めているが)で見せる瑞々しい感情表現は、既にここでその芽を出しているようだ。

特に印象的な楽曲は、M-7「Basil's Kite」と、M-2「Oh Messy Life」である。その乾いた歌声は、己の屈折した日々を回想するように内省的で、そしてもの哀しい。聞く者の感情を揺さぶる「エモ」的な「泣き」の表現手法が確立される以前のプリミティブなサウンドは、嘘偽りなく高い純度で心に届く。同じく寂しさを抱える者の声として、そっと心に寄り添ってくれるのである。

 

*1:彼らがキャップンジャズ解散の後に参加したバンド群が分かりやすくまとまっているおすすめの記事を紹介しておく キンセラ・ファミリーのバンド活動歴を分かりやすくまとめてみた。 自由きままな兄弟達の系譜。 | とうきょう砂漠のアレクサンドリア