『サウンドスケープーその思想と実践』/鳥越けい子著

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カナダの作曲家マリー・シェーファーが提唱した「サウンドスケープ」概念およびその研究と実践について述べた本。建築・都市の分野の著書を取り扱うSD選書から出版されていることからも想像がつくように、本書にはサウンドスケープをまちづくりに展開することがメッセージとして込められている(この点については現実の都市デザインのあり方との乖離を感じてしまった)。

読後の感想としては、私自身一人の人間として、音環境および世界を改めて見つめなおす、いや「感じなおす」ことを実践したいと強く感じている。本書の内容からは少し脱線するが、個人的に一つ気になっているのが、音楽が携帯プレイヤーを通して聞かれるようになったことはどのように人々の感性を変化させたのかということ。MP3ネイティブ世代である私にとって、外で音楽を聞くというのはごく当然のことだったが、歴史的に見ればウォークマンiPodの発明の前後で人間の環境の捉え方は革新的に変化しただろう。1997年に出版された本書にはそのようなことに関する記述はなく、聴衆のリスニングスタイルについては、音楽はコンサートホール及び自宅のプレイヤーで聞くものであるとして論が進められているように見える。

イヤホンで耳を塞ぐという行為は、それ以前の時代よりも更に人間の感性を自然から分断された閉鎖的なものにしているのか、あるいは音楽を「借景」として利用し世界を豊かに感じさせることに成功しているのか。そういったことを確かめるためにも、反省の意を込めてこの装置を耳から外し、自分の身体で世界を感じるということを意識的に実践してみたいと思った。