syrup16g【SCAM:SPAM:SCUM:SLUM】@USEN STUDIO COAST(2021年2月2日)

開演の15分前に会場入りを済ます。SEとして、ファンクっぽい暖かい音色の楽曲が流れている。一昨年に行われた同ツアーの恵比寿公演でかかっていたJoy Divisionとは大分雰囲気が違う。shazamを使って調べてみたところ、Warというグループの「City, Country, City」という曲らしい。全然知らなかったが、良い曲だ。今日一日の穏やかな陽気にもよく合っている。

 

【セットリスト】 
01. 実弾(Nothing's gonna syrup us now)
02. メビウスゲート
03. イカれたHOLIDAYS
04. 生きたいよ
05. I.N.M
06. ラファータ
07. 向日葵
08. 理想的なスピードで
09. メリモ
10. everseen
11. To be honor
12. 旅立ちの歌
En.1-1 バナナの皮
En.1-2 Sonic Disorder
En.1-3 天才
En.1-4 coup d'Etat~空をなくす
En.2-1 汚れたいだけ

 

はっきり言って、現在のsyrup16gというバンドの状態は、プロミュージシャンとしてあまり「健全」ではないのかもしれない。五十嵐隆の声は、もうずっと調子が良くない。ギターも、解散前よりは上達していると言われているものの、随所でミスを連発する。ライブでの演奏の迫力については、中畑大樹キタダマキ両名におんぶにだっこの状態だ。

また、新曲のリリースが充実しているというわけでもない。『生還』の翌年に、復活第一号作となる『Hurt』(2014)をリリースしたのは良いものの、その後の『Kranke』(2015)や『darc』(2016)は、かつての作品のような輝きを放ってはいない。さらに五十嵐自身が詩の中でそれを自虐している始末だ。解散前の時期や犬が吠える時代の楽曲などを録音した『delaidback』(2017)も、一部の楽曲について五十嵐の状態のせいでひびが入ってしまっている。「年刊俺」(これはライブにて五十嵐が『darc』を指して言った言葉だ)も2018年には刊行されることがなかった。そんなこんなの状態で2019年の終わりから始まったのが【SCAM : SPAM】ツアーである。そして、(1月に行われた二回と)今日と明日の公演で、ようやくそれが終わる。

結論から書くと、今日の五十嵐は開き直っていた。はじめのMCで「頑張る」と口にした時点で、おや?と思った。そして、その後のMCにて、ついに「できないことも込みでパフォーマンス」であると言い放ってしまった。ついにそれを自ら言ってしまったか! その通り、恐らく、シロップのライブに来ている人の多くは、五十嵐のギターや歌がガバガバであるのを含めて、ライブを観に来ているだろう。少なくとも、俺はそうだ。だが、このことを彼自身が口にしてしまうとなると、話は少し違ってくる。つまりは、できない私を受け入れてということ。音楽でお金を稼ぐプロのバンドマンの発言として、自らの価値を破壊しかねない本質的な問題をはらんでいる。そのような爆弾発言が出てきたことに、とてもびっくりさせられた。考えてみると、このツアーにおけるコアなファン向けとも言えるようなニッチな楽曲を集めたセットリストにもその態度は表れているとも言える。

でも、結局俺は、五十嵐およびシロップに対して愛想が尽きるなんてことはないのかもしれない。先の発言が飛び出たときには一瞬ひやっとしたのだが、バンドの演奏を聞いているとそんなことはどうでも良くなってしまった。むしろそんな風にぶっちゃけてしまう五十嵐を、よりいっそうニヤニヤと眺めてしまう。確かに、俺は五十嵐の「友達」(これも今日のMCで彼の口から出てきた言葉だ)なのかもしれない。

今日のライブで良かったことを書く。上に述べたような五十嵐の開き直りの態度の影響か、また「距離」を求められる中で繋がりを求めようという工夫の甲斐もあってか、バンドメンバー同士、さらにはバンドとオーディエンス間での距離感がとても近く感じられた。連帯感とでも言えばいいのかもしれない。特に、中畑(ちなみに髪が青色になっていた)は、そのような連帯感を創出しようと努めているところがあってそれがとても好ましく感じられた。ニヤニヤとした顔つきでそれに乗っかる五十嵐も愛らしい。不思議な魔法のかかった今日のライブの時間は、音楽を通じて心と心で繋がれている気がして、幸せだった。

セットリストについて。そもそも俺はシロップのどの曲も好きで思い入れがあるから、あまり客観的に見ることが出来ていないかもしれないけど、特に印象的だった楽曲について書く。まずは、「生きたいよ」。キメのリズムが特徴的な楽曲だけど、中畑のドラムに気合いが入っていて、人体の演奏に締まりと迫力があった。また、ちょうどこの曲のあたりで五十嵐の喉がパンクするのを感じた(うるおいの貯蓄が尽きる感じである)。一度潰れるところから、危うい低空飛行でパフォーマンスは続く。「メリモ」も良かった。前の「理想的なスピード」でしっとりとしたバラードを聞かせてからの激しいエイトビート。客席が静かにじっと揺れるのを感じた。そして、「To be honor」~「旅立ちの歌」。先に紹介した五十嵐のぶっちゃけたMCは、この二曲の間で行われた。生還後の、自分を赤裸々に語ったこれらの曲の合間に、そのような話を持ってくるのがニクい。

アンコール。「ラファータ」についても同じことが言えるのだが、俺はセルフタイトルアルバム『Syrup16g』がとても好きなので、「バナナの皮」が演奏されることが嬉しい。あのアルバムの録音はバンドサウンドとしては死んでいるから、ライブで演奏されると全然別物に聞こえて新鮮だ。マキリンの弾むようなベースサウンドも素晴らしい。

二度目のアンコールで披露されたのは、「汚れたいだけ」。この楽曲の演奏で、五十嵐は全てを吐き散らすような、迫力十分のシャウトを聞かせてくれた。最後に、五十嵐に意地を見せられた形である。俺は、ギリギリのところで何とかもがいてる五十嵐がやっぱり好きなんだなあ。

明日も、書きます。

 

(MCについては記憶が曖昧で、誤りを含んでいる可能性があります)

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