森田童子 - GOOD BYE グッドバイ (1975)

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彼女のデビュー曲でもあるM-10「さよなら ぼくの ともだち」は、自殺した友人を歌った曲であると言われている。森田童子は、友人が死んだことをきっかけにして歌い始めたシンガーソングライターである。そのようなバックグラウンドを持つ彼女の歌には、独特の空気感がある。か細く澄んだ歌声も、アコースティックギターによるアルペジオも、時折用いられるエレキギターもピアノも、全てがシリアスであまりに物悲しい。

詩も特異である。先に述べた「さよなら ぼくの ともだち」と同じように、M-3「まぶしい夏」の詩も、自殺した彼女の友人の姿をありありと想起させる。この曲では、「太宰」や「玉川上水」という言葉が詩の中に登場する(アルバムのタイトル『グッドバイ』も、太宰の同名小説を意識したものだろう)。後の作品も含めて、彼女の楽曲の詩には「死」を思わせる表現が多く用いられるが、そのどれもがリアリティを伴っているのは、言葉に彼女の心の痛みが込められているからだろうか。

しかし、悲しさの中にも、かすかな明るさがある。M-4「雨のクロール」は、とても印象的な曲だ。わずかにスウィングするリズムと静かに弾むピアノの旋律が、心をやさしく照らしてくれる。それから、M-7「淋しい雲」も素晴らしい。さみしさについて書かれた詩とは対照的に、その音は何とも明るくてのどかだ。この不思議な感じは、それこそ太宰の小説にも似ている。孤独や痛みが切実に歌われているからこそ、その暗闇の中に灯るかすかな明るさがいっそう尊く感じられるのである。

 

世間の喧騒から逃れて、イヤホンで耳を塞ぎ、音楽と一対一で対峙する瞬間。そこには、私と音の二者しかいない。森田童子の楽曲を聞いていると、私の抱いているさみしさが音の宇宙の中に溶けていって、今自分が生きていることが赦されたような気がしてくる。私は、彼女の曲を聞くのが好きだ。