2021-05-31 愚か者(IDIOT)

先日購入したイディオット・オクロックの盤が本当に良くてずっとリピートしている。「Two Roses」という曲が特に最高だ。暗くどんよりとした雰囲気とその中に乗ってくる甘いメロディー。ニューウェイヴからの流れを受けつつも、狂気とポップネスの融合を青臭くも不器用に目指したような音楽である。同盤に収録されている「IDIOT's Train」なんかも本当に良い曲だ。どうにもこのバンドの曲を聞いていると、愚か者(イディオット)の悲哀みたいなものが身に染みて感じて、泣きそうになってしまう。

youtu.be

www.youtube.com


ところで、イディオット・オクロックのその作品はアルケミーレコードからリリースされているのだが、そのホームページでレーベルの主宰であるJOJO広重が「こころの歌・最後の歌」というコラム(Alchemy Records Official Site / Column / こころの歌・最後の歌)を書いているのを偶然見つけた(イディオット・オクロックについても書いている)。

彼が結成した非常階段というバンドはスカムなノイズミュージックを奏でるグループであるが、一方で彼は音楽に対するとても真摯な愛情を持っていて、このウェブサイトでは彼が自身のそんな想いを存分に綴っている。コラムは2021年現在では更新が止まっていまるが、彼が10年にわたって記し続けた100枚のアルバムに対するレビューは、そのどれもが本当に素晴らしく、これからも読み継がれていくに値するものだと思う。非常階段、イディオット・オクロック、羅針盤ヴェルヴェット・アンダーグラウンド森田童子ほぶらきん……これらのミュージシャンの名前を聞いてピンと来た方は是非読んでみてほしい。


いくつか印象的なものを引用する。頭士奈生樹の「Ⅲ」を取り上げたコラム(Alchemy Records - Culmn - こころの歌・最後の歌)より。

『かなう夢など夢ではない/かなえられない夢こそ愛おしい』(窓)

  頭士くん、こんな罪な歌詞は、ないよ。
  この1行で、わたしは何度泣いたことだろう。
  そして、そして、わたしはやはり、夢を追う。


  『君がいる/その光の粒の中へ/とけてゆく』(光の粒)

  この「光の粒」は、頭士くんにコードをおしえてもらって、32年ぶりにカポタストまで購入して、あるライブでカヴァー演奏をしてみた。
  いつか、自分の歌にしたい、そんなふうに思える曲だ。
  この美しいラブソングを、最愛の人に、ささげよう。


  想いを大切にする人だけに訪れる「奇跡」が、ここにある。

もう一つ引用。赤痢の「私を赤痢に連れてって」を取り上げたコラム(Alchemy Records - Culmn - こころの歌・最後の歌)より。

   実際は、彼女たちが楽器を弾いたり、新曲を作っているかといえば、必ずしもそうとは限らないかもしれない。でも、音楽をする、ということは、音楽をこころに持って生きているかどうか、生活しているかどうか、そういうことではなかったか。歌を歌っている人が本当に歌を歌っているのかどうか。音楽を演奏している人が本当に音楽を演奏しているのか?楽器を演奏しなくても、歌を声を出して歌っていなくても、音楽をし、歌を歌っている人はいるのだ。そのことを、私はよくよく、知っている。そして赤痢のメンバーであった5人は、今も音楽をやっている、と、言えるのではないか。そう信じているし、そう以外には考えられない。

どれもが救いのような言葉だ。眠れないのか、目が覚めてしまったのか、何だかよく分からない午前四時の時間帯に、ベッドの上でイディオット・オクロックを聞きながら、スマホでこのコラムを読んで少しだけ泣いた。